国土交通省は16日、2019年の東日本台風を受けた阿武隈川の緊急治水対策として鏡石、矢吹、玉川の3町村で整備を進める遊水地の事業完了と運用開始が当初の28年度から5年遅れ、33年度になるとの見通しを明らかにした。現地の調査で遊水地の範囲を拡大する必要が出たほか、物価高によって事業費が当初から約800億円増え約1800億円に膨らむ見込みとなり、計画期間の延長が必要となった。
16日、福島市で開いた阿武隈川水系河川整備委員会で示した。国交省は「緊急治水対策の完了は遅れるが、その間も河道掘削などにより水害対策を進めていく」としている。
国交省によると、調査で遊水地の計画区域内の地下水水位が想定より高いことが判明。掘削できる深さが限られるため、遊水地の容量を確保するために面積を広げる必要が出たという。さらに掘削した土を堤防の盛り土などで活用する計画だったが、土が軟弱で土質改良も必要になった。
また、物価高騰の影響で事業を開始した19年と比較して公共工事の労務単価や工事関係資材単価が約3割上昇、週休2日工事の導入も事業費を押し上げた。
国交省は当初、999億円の事業費を想定していたが、事業費見直しの結果、遊水地の範囲拡大などで約603億円、物価高騰の影響などで約241億円が追加で必要となった。コスト削減を図っても大幅な上昇は避けられず、工事期間と事業費を確保するため、計画期間の延長が必要になったという。
遊水地について国交省は、3区画に分け、3町村に計350ヘクタールを整備する計画。計画区域内の住民の移転については、水害の危険性があるとして当初の予定通り28年度までに完了させる方針だ。
一方、地元3町村によると、コメ農家約10世帯が遊水地完成後に農地を整備し、営農する意向を示している。玉川村の担当者は「遊水地の整備が遅れれば、それだけ農地整備も遅れる。(遊水地の)区域内で農業をしたい人の将来設計に影響する可能性がある」との懸念を示した。
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遊水地 大雨が降った時に、川から水があふれて浸水範囲が広がらないよう一時的に水をため込む施設。遊水地の区間とその下流側の水位を下げ、浸水被害を軽減する。