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長時間労働…進む是正 規制強化から1年半、物価高や人手不足課題

2025/09/16 08:30

現場技術者を後方支援する「バックオフィス」の担当者=福島市・佐藤工業

 長時間労働を是正する働き方改革関連法施行に伴う残業規制が昨年4月に強化され、1年半になろうとしている。「2024年問題」が叫ばれた中、県内でも自動車運転業や建設業などの業種で常態化していた長時間労働を解消するための動きが進む。一方、物価高騰や人手不足といった課題は依然として残ったままだ。現場の試行錯誤は続く。

 事務所から後方支援

 規制強化に合わせ、建設業の佐藤工業(福島市)は残業時間が多い傾向にある現場技術者を、事務所から後方支援する事務管理部門「バックオフィス」体制を導入した。社内に担当課を新設、これまで現場が行っていた一部業務などを引き受ける。

 以前は技術者が現場や事務所、下請け先を行き来して書類提出や報告などに当たっていたが、工事情報共有システム(ASP)を活用することで遠隔での確認作業が可能となり、移動時間の短縮につながった。現場の負担を減らすだけでなく、子育て中の現場経験者も活躍できる場として働き方の可能性を広げている。

 労働環境の改善には、従業員一人一人の意識向上も鍵を握る。同社は段階的に残業時間の目標値を掲げ、昨年度の平均残業時間は月約17時間と半減させることに成功した。青柳勝彦土木本部長(52)は「仕事への意欲にもつながっており、一定の成果を感じている」と手応えを語る。

 減収分を会社が補填

 「働いただけ稼げる」とされていたトラック業界。歩合制の現場は勤務時間の削減が収入減に直結し、一層のなり手不足が懸念される。運送業の福島倉庫(二本松市)では、減収分を会社側が補填(ほてん)することで離職防止に努める。「物価高で燃料費、トラックの購入費も値上がりして苦しいが、人手確保のためやむを得ない」。蓬田隆信社長(57)は苦しい胸の内を明かす。

 ただ、業界内で長時間労働の要因の一つとされてきた「荷待ち」は解消されつつある。これまでは荷主が決めた納品時間に各地から殺到したトラックが列を作り作業できず待機するだけの勤務時間が生じていた。

 規制強化を機に、荷主に要請し「午前中」や「午後」といった幅のある時間指定に変化。待機時間が短縮され、業務効率化につながっているという。政府は来年4月から、荷待ちの時間短縮などトラック運転手の長時間労働抑制に向けた計画作成を義務化する方針だ。

 適正運賃の実現訴え

 規制強化に伴い残業時間が規定を超える違反をした場合は、事業所に罰則が科されるが、順守のために身を削る企業もあるのが現状だ。運送業ではこれまで荷主との力関係で弱い立場にあり、価格競争も相まって低運賃が慣例化していた。

 だが、荷主側にも「ドライバー離れが進めば荷物を運んでもらえなくなる」との危機感が芽生え、運賃への価格転嫁に応じる動きも出てきた。県トラック協会の担当者は「ようやく交渉のテーブルに着くことができた」と実感する。

 それでも運賃は、国が示す交渉の参考指標「標準運賃」の6~7割程度にとどまる。法改正で人件費などを考慮した「適正原価」の導入が決まり、協会は今後も持続可能な運賃の実現を広く訴えていくつもりだ。労働環境の改善や働き方改革を進めるには企業や業界の努力だけでなく、社会全体の理解醸成が不可欠だ。

           ◇

 2024年問題 24年4月から自動車運転業や建設業、医師の残業時間の上限規制が始まり、深刻な人手不足などが懸念される問題。働き方改革関連法の施行に伴う。長時間労働が常態化していた業種は施行から5年間の猶予が設けられた。

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