大阪・関西万博会場に、70台を超える車いすが形作る真っ白なオブジェがある。手足に障害のあるアーティスト檜皮一彦さんの作品だ。芸術はより良い未来を実現するための手段だといい、障害者が暮らしやすい社会に向け「アートを通して未来をみんなと一緒に話したい」と語る。
作品は、高さ約5メートルの箱形の骨組みを覆うように車いすが取り付けられ、支柱で宙に浮くように置かれている。旧約聖書に登場する「ノアの箱舟」から着想を得ており、海に面した万博会場で、移動に困難を抱える自分自身をどこか遠くへ自由に運んでくれる存在として表現した。
生まれつき両手足に欠損がある。思春期には車いすも親も、世の中全てを憎んでいた。大多数の人と異なる自分を表現する手段として行き着いたのがアートだった。問題ばかりの人生を変える糸口になればと、大学時代にデザインを学んだ。
車いすの作品を手がけるようになったのは大学院時代だ。自分とは切っても切り離せない車いすの作品に、苦しみや憎しみなどさまざまな感情を込めている。