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【新まち食堂物語】川崎屋食堂・二本松市 名物手打ち「肉うどん」

2025/11/23 09:50

  • 動画付き
うどんセットを運ぶ佐智子さん。早朝から仕込んだこだわりの手打ちうどんから湯気が立ち上る
若者にも好評な半ライスと卵焼きなどが付いたうどんセット

 二本松市針道で3代続く老舗の「川崎屋食堂」。家具が置かれた茶の間風の小上がりなど、昭和レトロ感満載の店内は連日、昼食を求める地域住民らでにぎわい、憩いの場となっている。

 店は初代の鴫原ケサさんが開業し、100年以上の歴史を誇る。2代目のシイさんは、うどん打ちの名人として知られた。戦後間もない頃で、コメがまだ少ない時代。小麦粉を使った手打ちのうどんやラーメンが人気を集め、店は繁盛した。

 1970年代の第2次婚姻ブームに合わせて75(昭和50)年に店を改修し、結婚式場のほか、一時は民宿も併設した。73年に3代目の康浩さんと結婚し、福島市飯野町から嫁いだ佐智子さん(82)は「昭和50年から56年ぐらいまでは食堂経営の傍ら、週末ごとに50~100人程度の結婚式の予約が入り、寝る間もないほど忙しかった。われながらよく頑張っていたと思う」と当時を振り返る。

 努力重ね味再現

 店の名物は先代から続く「肉うどん」。うどんは佐智子さんが早朝から5時間かけて手打ちで仕込む。コシのある麺に、カツオとサバのだしで豚バラと長ネギを煮込んだつゆはどこか懐かしく優しい味わいで、冷えた体だけでなく心まで温まる一杯だ。肉うどんに半ライスと佐智子さん特製の卵焼きが付いたセットは若者に好評だという。

 「シイさんがうどんをやっていなかったら、今の川崎屋はなかった」と佐智子さん。「シイさんは病気がちで、うどん作りを教えてくれなかったから、見よう見まねで毎日練習して少しずつ覚えた。うどんのつゆのほか、鶏ガラ、豚骨で取るラーメンスープの作り方も自分の舌で覚えた。味に厳しかったシイさんの味を再現するのは難しいけれど、お客さんにがっかりされないよう日々精進している」と謙虚に話す。

 今年4月には長年にわたり、二人三脚で店を切り盛りしてきた康浩さんが腎不全で79歳で亡くなった。中学校卒業後、福島市のかっぽうで修業し、20代で店を継いだ康浩さんは2月まで店に立ち続けた。佐智子さんは「腎臓がんで闘病中も絶対に病に打ち勝つと言い続け、自分のことよりも店の心配ばかりしていた」としのぶ。夫の喪に服し、店を続けるか悩んだが、店を続けたかった3代目の遺志を受け継ぐとともに、うどんを楽しみにしている常連や帰省客のため、5月の大型連休から店を再開することを決意。6月にはぼろぼろだった店ののれんを新調し、心機一転を図った。

 看板を残す覚悟

 佐智子さんは「店で体を動かしていた方が気が紛れる」と話す。「もうけは二の次。同世代から孫らの世代まで毎日いろんな人が店に来てくれて、お話できることが一番の楽しみ」と笑う。

 「手打ちうどんが出せなくなったら、川崎屋が川崎屋でなくなる。この先いつまで続けられるか分からないけれど、もし店を継いでくれる人がいるならうどん作りも伝授したい」。愛する夫から受け継いだ店の看板をこれからも残していく。

お店データ

■住所 二本松市針道字町56

■電話 0243・46・2503

■営業時間 前11時~午後4時

■定休日 月曜日

■主なメニュー
 ▽名物肉うどん=900円
 ▽けんちんうどん=900円
 ▽うどんセット=1300円
 ▽ラーメン=800円
 ▽煮込みカツ丼=1000円

 あばれ山車特等席

 店を構える二本松市針道の目抜き通りでは毎年10月、大型人形に彩られた山車をぶつけ合う勇壮な祭り「針道のあばれ山車」が繰り広げられる。本来なら目の前で見物できる特等席だが、毎年店が忙しく、鴫原佐智子さんは「嫁いでからいまだにちゃんと見たことがない」と笑う。

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