浜通りの沿岸部約200キロを縦断する「ふくしま浜街道トレイル」を楽しく巡ってもらおうと、新たにハイキングパスポートが導入される。ルート周辺でスタンプを押し、寺社巡りの御朱印帳のように旅の記録ができる仕組み。各地の施設や観光スポットを訪れることで「地域住民とトレイルを旅するハイカーをつなぐ取り組みになれば」との思いが込められている。
「こんなふうにスタンプを押してもらうんです。盛り上げていきましょう」。パスポートは9月30日から専用サイトで販売される。運営主体のふくしま浜街道トレイルアソシエーション代表理事の中島悠二さん(43)は、試作品を持って各地を巡り、パスポート事業への協力を呼びかけている。
写真家として長く歩く旅の魅力に引かれ、浜街道トレイル事業に関わったことなどから楢葉町に移住。トレイルの運営や魅力の発信に取り組んできた。
自身の経験から「ハイカーにとって一番の思い出は現地の人との交流。浜通りのトレイルで何かできないか」と考えていた。隣接する「みちのく潮風トレイル」(青森県―福島県相馬市)の取り組みを参考に、スタンプを集める過程で住民との触れ合いが生じるハイキングパスポートを作ることを決めた。浜通り13市町村の宿泊施設や観光スポットなどに協力を求め、約90カ所からスタンプ設置の賛同を得ることができた。
パスポート事業に協力する施設の一つで、広野町の多世代交流スペース「ぷらっとあっと」の青木裕介さん(44)は「ハイカーが施設を訪れることで地元のことを知ってもらえるし、交流サイト(SNS)などで情報発信もしてくれるはず」と語る。中島さんは「スタンプを集めながら歩いて各地を巡れば、浜通りの復興を体感できるはず。ハイカーが地元との交流で好きになった場所を何度も訪れるようなきっかけにもなれば」と笑顔を見せる。
種類と数に応じてグッズ
ハイキングパスポートに押すスタンプは、自治体の公共施設などに置かれる「市町村スタンプ」とルート付近の観光スポットなどが用意する「施設スタンプ」の2種類を設ける。集めたスタンプの種類と数に応じて記念バッジや踏破証明書を購入できるようにしている。
市町村スタンプは、浜通りで活躍するデザイナーらが自治体の特徴などを踏まえて作成した。沿岸10市町ではトレイルルート、阿武隈山地の3村では県などが整備した街並みを巡る散策路「フットパス」を歩いてもらうことで、浜通り13市町村を周遊することができる取り組みとした。バッジをデザインしたアソシエーション理事の森山晴香さん(31)は「歩いた人には『あっ、あの道だ』と分かる図案にしました」と語る。
パスポートの楽しみ方を紹介する専用ページは、9月15日に開設する。問い合わせはメール(fct.associate@gmail.com)へ。
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ふくしま浜街道トレイル 新地町からいわき市までの10市町を縦断する長距離の歩く散策路として2023年9月に開通した。太平洋沿いの自然や東日本大震災からの地域再生の息吹を感じることができるルートが好評で国内外からハイカーが訪れている。JR常磐線の駅を発着点とした七つのモデルコースが設定されている。