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難治性前立腺がんの新薬治験、福島医大が実用化へ

2025/09/19 13:15

 福島医大は18日、難治性前立腺がんの新たな治療薬の治験を始めると発表した。放射性核種「アスタチン」を使った新薬を体内に注射してがん細胞を狙い撃ちする治療法で、これまでの治療薬に比べ効果が高く、副作用が少ないのが特徴。年内にも治験を始め、安全性や有効性を確かめた上で7~8年後の保険承認を目指す。男性のがんで最も多く、国内で年間1万2000人が死亡する前立腺がんに対する「純国産」の治療薬を実用化させる。

 医大によると、2021年に国内で前立腺がんと診断されたのは約9万5000人。初期段階では、男性ホルモンを抑える「ホルモン療法」が有効だが、ホルモン療法が効きにくい「去勢抵抗性前立腺がん」に進行することがある。この段階で違うホルモン薬や抗がん剤を使っても、作用の仕組みが似ているため一時的な効果にとどまり、治療が困難になるケースが少なくないという。特に骨やリンパ節に転移した患者は、痛みや麻痺(まひ)に苦しむことが多く、新薬の開発が求められている。

 アスタチンが放出する放射線「アルファ線」は、他の治療薬に活用されている「ベータ線」と比べて飛程が短くエネルギーが大きいため、より強い力でピンポイントにがん細胞を攻撃できる。一方、アスタチンを体内で安定させるには課題もあり、アスタチンとがんとの接続が切れてしまうと、放射性核種が体内に散らばって正常な臓器に蓄積されてしまう可能性が懸念されていた。このため医大は、アスタチンを化合物と結合させることで、がんとの接続を切れにくくする新薬を開発した。

 新薬の治験は、既存のホルモン療法や抗がん剤でも治療できなかった患者12~18人を対象とする。治療薬は医大の敷地内で、アスタチンを製造するサイクロトロンを使って合成する。

 放射性薬剤の開発は各地で行われており、国内でもベータ線を出す放射性核種「ルテチウム」を使った新薬について保険承認に向けた手続きが進んでいる。ただ、ルテチウムは放射線の飛程が長く正常な細胞まで傷つけてしまう可能性があるなどの課題も指摘されておりアルファ線を活用した新薬への期待は大きいという。

 竹之下誠一理事長・学長は18日、医大で記者会見し「震災と原発事故以来、放射線健康リスク科学という新たな学問分野を確立し、国際社会に貢献すべく歩みを進めてきた。原発事故が引き起こした未曽有の災害を乗り越え、拡散した放射線の負のイメージを払拭すべく、放射線が持つ力を県民の命と健康を守る医療という希望の光に昇華させる」と述べた。

      ◇

 福島医大の放射線医学研究 2012年に国内初となる「PET―MRI」を導入。16年には医療用として国内唯一の「中型サイクロトロン」を整備し、アスタチンを用いたがん治療薬の開発に注力してきた。国内最大規模の放射線治療用病床があり、放射性薬剤の製造から臨床試験まで一貫して対応できる体制が整っている。治験開始により、取り組みが研究段階から臨床応用に進むことになる。

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